「長谷寺の住職は現在35世代目。歴史ある寺を守ること、そこから仏教を発信すること、そこが地域に開かれた場となること。課題も夢も山積み。そんな住職の日々と思いをつづります。」
1泊3名様でお部屋をご用意してございます
娘と京都に行った。一泊の小旅行である。といっても、所用によるのだが。
用を済ませて、ネットで予約した某ホテルへチェックイン。
(ネット予約というのは、どうしてこんなに安くなるのだろうか)
◆
地下駐車場に車を停めてエレベータでフロントへ。
渋い佇まいのロビーは重厚な雰囲気が漂っている。西洋人が溶け込む空間構成に、日本の京都のホテルにいながら、日本人らしく緊張する。
そんな雰囲気にはお構いなしの娘は、いつものようにお人形のメルちゃんと連れ立って浮き浮きとついてくる。
「いらっしゃいませ」
「予約していたオカザワです」
「オカザワ様、お待ちしておりました」(不自然なほど、自然に聞こえる)
娘がカウンターによじ登ろうとする。カウンターの前に設置してある荷物置きようの台に登ってしまった。
「これ、じっとしてなさい、せめて靴を脱げ」(と、重厚なロビーに響かないように小声で注意)
「オカザワ様、本日よりご一泊、お二人様でございますね」
はい、と応答しようとした私より先に娘が答えた。
「3名様でちゅよ!」
荷物台に立ってカウンターに半身を乗せながら、娘はフロントマンにメルをぐいと差し出した。
一瞬、その若いフロントマンはパソコンに目をやって数字を確認した。
「すみません、この人形のことです」と私はいささか弱って言った。そして彼に小声で「2人ですよ」と付け足した。
すると娘はすかさず「3名だってば」と強い口調でいう。耳と鼻が利くのは祖母に似たか。重厚なロビーに娘の抗議の声がこだまする。声が響くのは母親似だな。
となりでチェックインをしているアメリカ人らしい夫婦が楽しそうに微笑んでいた。
口を尖らせた娘がフロントマンをじっと見ている。
フロントマンはやわらかな微笑を含ませた口元で言った。
「失礼いたしました。1泊3名様でお部屋をご用意してございます」
「ああ、そうだった、お世話になります」
その若いフロントマンは、それ以降まったく自然に何度かのやり取りの間中「3名様」と言い続けた。
娘はその様子をじっと見て、とても満足した様子で、何かブツブツとメルに話し掛けていた。
チェックインを終えて、エレベーターに向うと別の若いホテルマンが荷物を運んで案内してくれた。
エレベーターに乗り込むと、娘が私に小声で言った。
「本当は7人だけど、4人はかばんに入っているから内緒ね」
係の若者が怪訝そうに娘を見たのを私は見逃さなかった。
部屋に入ると、娘はさっそくかばんからペネロペと「あたしんち」のお母さんとお祭りで買ったサルとヤッターマンのブタの人形を取り出して、メルとともにベッドに寝かしつけ始めた。
私に館内の説明をしながら、若い係が横目でその様子をしっかり確認したのも、私は見逃さなかった。
こうしてホテルマンは成長していくのかもしれないな。
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いい話っすね。タイトル見て、長谷寺が宿屋を始めたかと思いました。
ikumasaさま
温泉でも掘り当ててもらえば、すぐにでも宿坊オープンです。
ikumasaさま、いかがですか?
石ノ森章太郎の「ホテル」を
彷彿とさせるお話です
長谷寺に何度か
泊まらせていただいた身としては
宿坊長谷寺も
あり
だったりして(笑)
幽黙さま
「ちょっといい話」としてありがちなエピソードではありますが、自分の出来事としてはなかなかいい感じでしたよ。
こういう参詣所ですから、その昔はお篭りや坊入りで、通夜の念仏や観想をしたのでしょうね。
奈良の長谷観音も夢告の霊場ですから、そういう祈りの場の可能性も残しておきたいものです。
かわいらしい一幕ですね。
お人形がいろんなジャンルで取りそろえられているところに、
なんというか、秘められた才能感じているのは私だけでしょうか。
アップされたのに気がつかず、今日拝読しまた。
わたしも、いよいよ宿坊オープンか!!??
タイトルを見て心躍りました。読み終えて、心温まりました。