住職日記

詩  便所掃除

今朝の朝刊でこんな詩を知った。「トイレの神さま」という歌が昨年はよく聞かれたが、この詩は昔の国鉄の職員さんの体験によるものとか。

 

僕自身そういう世代であるが、いわゆる「キツイ・汚い・危険」が取り除かれてきた教育、家庭、地域環境で育ったものには、スムースな暮らしを床下や背後から支えている部分が見えないし、またそういう部分に関わることでしか学べないことや気づけないことを、大人になっても家庭を持ってずっと知らないまま生きてしまう。

 

この詩を読み、我が身を振り返り、これはよほど自分自身の暮らしぶりを意識しないと、いけないなあと思うのです。成人式を控える人たちにも差し上げたい詩です。

 

 

  便所掃除           浜口国雄

 とびらを開けます。
 頭のしんまでくさくなります。
 まともに見ることができません。
 神経までしびれるかなしい汚し方です。
 すんだ夜明けの空気までくさくします。
 そうじがいっぺんにいやになります。

 どうして落ち着いてくれないのでしょう。
 けつの穴でも曲がっているのでしょう。
 それともよっぽどあわてたのでしょう。
 おこったところで美しくなりません。
 美しくするのがぼくらのつとめです。
 美しい世の中もこんなところから出発するのでしょう。

 

 くちびるをかみしめ、戸のさんに足をかけます。
 静かに水を流します。
 ババぐそに、おそるおそるタワシをあてます。
 ボトン、ボトン、便つぼに落ちます。
 ガス弾が、鼻の頭で破裂したほど、苦しい空気が発散します。
 心臓、爪の先までくさくします。
 落とすたびに、くそがはねあがって弱ります。

 かわいたくそはなかなかとれません。
 たわしに砂をつけます。
 手を突き入れてみがきます。
 汚水が顔にかかります。
 くちびるにもつきます。
 そんなことにかまっていられません。
 ゴリゴリ美しくするのが目的です。
 その手でいたずら書き、ぬりつけたくそも落とします。

 潮風がつぼから顔をなであげます。
 心もくそになれてきます。
 水を流します。
 心に、しみたくさみを流すほど、流します。
 雑巾でふきます。
 キンカクシのウラまでていねいにふきます。
 
 もう一度水をかけます。
 雑巾で仕上げをいたします。
 せんざいをまきます。
 白い液体から新鮮な一瞬が流れます。

 

  静かな、うれしい気持ちですわってみます。
 朝の光が便所に反射します。
 せんざいが、くそつぼの中から、七色の光で照らします。

 便所を美しくする娘は、
 美しい子どもをうむ、といった母を思い出します。
 ぼくは、男です。
 美しい妻に会えるかもしれません。

 

shirasukeをフォローしましょう

シェアする