住職日記

冬至の頃の贈り物 


冬至の頃の贈り物 

12月8日は、お釈迦さまが長い修行の末に悟りを開いた日、成道会(じょうどうえ)です。

この時期の信州の夜明けは冷え込みがぐっと厳しくなって、お布団から出るのも辛くなってまいりますが、朝のお勤めに観音堂に向かう時、東の空には美しい三日月とともに、ひときわ輝く金星がありました。

お釈迦さまがお悟りを開いた時も、金星が輝いたそうです。

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その昔、中国では冬至を太陽運行の起点と考え尊い日として祝いました。

古代中国の皇帝は、その天の運行を司る能力を天命によって授かるものであり、その神聖な力に則って暦を作りました。

周辺の朝貢国は、冬至の頃に「冬至使」という使者を送り皇帝に貢物を献上しましたが、この時の返礼の品として、何にもまして最も重要だったのが暦だったのです。

農耕を中心に生きる人々にとって、正しい暦は生死を分ける道標ですから、周辺の国々はこぞって暦を求め冬至使を送ったといいます。

長谷観音は、真東を向いて立っていますが、毎朝同じ場所に立つと、毎朝の日の出が冬至から夏至にかけて南北に扇のように行き来するのがよく分かります。

きっと、遠い昔に、この山に立って、人々は太陽の運行、月の運行、季節の変化、宇宙の摂理を見つめていたのでしょう。

昔の僧侶や宗教者を「ひじり」といいますが、それは太陽の動きについてよく知っている人、つまり「日知り」という意味であったという説もありますね。

大自然、森羅万象の根本にある太陽について深い知識を持つ人が、まさに共同体の命運を左右する導き手であり、その『智』によって、人々は宇宙とつながっていたのでしょう。

 

さて、冬至は、暦の起点として神聖なばかりでなく、日照時間が最も短くなり、また最も力の弱まった太陽が、その日を極として再生してくる日でもあります。したがって、太古から天地の運行に従って生きてきた人類にとっては、太陽がその力を蘇らせるという特別に神聖で神秘的な日だったのです。

そのせいでしょう。世界各地に冬至の頃に聖者が訪ねてきて贈り物を届ける話が伝えられています。

日本にはこの時期に弘法大師が贈り物を届けてくれる伝承がありますし、よく知られる笠地蔵の民話も、年越しを前にした老夫婦が、お地蔵さまから思いがけない恵みを授かるものですね。西洋ではイエス=キリストという最大の贈り物が神様から届けられるのがこの冬至の季節ですね。お釈迦さまがお悟りを開いたと伝えられるのもまた、この冬至を前にした12月8日なのですね。

聖者が贈り物をくださったり、世界に愛をもたらすイエスの誕生や人類に平安をもたらすお釈迦さまのお悟りがこの季節とされたりするのは、太陽の力が蘇り、天地が命に恵み(慈愛)を与えてくれることを強く実感できるからなのでしょう。

 

東日本大震災や原発事故をきっかけに、便利さや効率重視のライフスタイルを見直す機運が高まり、自然との共生が見直されています。

しかし自然の厳しさを思えば、共生というより自然の中に生きる存在として、人間や自分自身を見直す必要があります。

今年の冬至には、改めて暦を見直してみてはいかがでしょうか。

きっと天地から与えられる慈愛が感じられますよ。

(明日香岡本寺寄稿一部訂正)

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