住職日記

桜 ‐3‐

あれをみよ 深山の桜咲きにけり 真心尽くせ 人知らずとも

みやまのさくら

桜の季節。

あちこちに美しい桜の花が咲き誇る春を迎えていることでしょう。

春は農業も始まり、入学、入社と、何事につけ始まりの季節でもありますね。

街を歩けば、大きすぎるランドセルのピカピカの一年生や、ネクタイもスーツもぎこちない新入社員を見かけます。みんな頑張ってほしいですね。

お坊さんたちの修行も近年は春から始まります。
発心出家に時節がらなど関係ないように思いますが、そこは世の習い、学業や仕事に一定のけじめをつけて修行道場の門をくぐるのです。
昔ほどではないとはいえ、便利で行き届いた現代生活から飛び込む僧堂生活は厳しいものです。

ある若者が、出家しようと意を決して師と仰ぐ僧侶を訪ねました。
これから厳しい道場に向かうのです。
ひと言、励ましの言葉、はなむけの言葉を乞いました。
すると師は、黙って筆を執り、短冊にさらさらと歌を書いて渡してくれたそうです。そこにはこうありました。

あれをみよ 深山の桜咲きにけり 真心尽くせ 人知らずとも

あれをご覧、深い山奥に、人知れず咲く桜がある。誰に愛でられることもない。しかし満開に咲いている。桜は、誰かに見られ褒められたくて咲くのであろうか。違うであろう。人知らずとも、精一杯咲くのである。

お前はどうか。

仏道修行に限らず、私たちは弱く、褒められれば頑張り、誰も見てくれなければやる気も萎みます。
どんなに頑張っても、誰も気がついてくれず、誰も褒めてくれないことばかりですね。
家事とか、地道な仕事など、心が折れそうになることばかりの毎日です。
むしろ、人生とはそんなものといえます。

しかし、人が見ていないからといって、咲くのを止める桜があるでしょうか。
さあ、思い浮かべてみてください。
あの山のそのまた山の奥ふかくに、人知れず咲く満開の桜を。

皆さんも、それぞれの深山でどうぞ真心尽くして咲きましょう、人知らずとも! 

マイペースでいきましょう
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