住職日記

桜 ‐1‐

観音に誓って花に死なんかな

枝垂れ桜と観音堂


長谷寺第二十六世住職慶覺は、書と俳句をよくし、特に俳句については著名な宮本虎杖(こじょう)について研鑽し、師の遺言により「天姥」の号を授かりました。虎杖は一茶と同じころの人で、北信濃一帯で活躍していた俳人です。

長谷寺の観音堂南に建つ「虎杖塚」は、慶覺が願主となって建立した師である虎杖の句碑で、右の句が刻まれています。

観音に誓って花に死なんかな

虎杖塚(文化7年春建立)

句の中の「花」は桜のこと。

観音さまに誓って桜の季節に死にたいものだ、という句ですが、かの有名な西行法師の桜への想いを偲ばせ、俳人として、もののあわれ、侘び、寂びを生きた虎杖の心を伝えています。

桜は、日本人にとっては美意識の象徴です。その桜の季節に死のうというのは、俳人としての矜持の表出とも言えるでしょう。  

虎杖は、侘びさびや美の道を極めんと、人生をかけて俳諧の道を歩んだ証として、桜とともに死んでゆこうと、観音さまに誓ってみせたのです。

きっとこの句碑を建立した慶覺和尚もまた、師の精神を引き継いで、その心を我が心として生きていこうと願い、永く石に刻んだものと思います。

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