住職日記

「長谷寺の住職は現在35世代目。歴史ある寺を守ること、そこから仏教を発信すること、そこが地域に開かれた場となること。課題も夢も山積み。そんな住職の日々と思いをつづります。」

晋山式(傳燈奉告法要)

|

さる31日、第三十五世の長谷寺住職に就任する法要が行われた。

いわゆる晋山(しんざん)式であり、寺に代々継承されてきた法の灯火すなわち法燈を伝え受けることを、本尊、鎮守、祖師先徳(宗祖や長谷寺代々の住職)、檀家、関係諸寺院、地域関係者、そして供養されているところの祖霊に対して奉告する法要である。

それは、新しい住職を、檀家が迎えるものとして、どこか伝統的な嫁入りの儀式と似ているものである。

実際、新住職(新命という)は、一旦ある檀家さん(今回は長谷寺檀家総代長)の家から寺に入る形を持つ。この家を「菩提親」といい、世襲でなかった時代には、出家して生家を離れている新住職にとって、いわば親代わりの後見人のような立場で、身の回りの品や御衣類などの支度品を整えた。近年まで、この菩提親ともなると家まで新築して新住職を送り出したという。

むろん、現代ではそれほどのことはないが、私の場合も、総代長ご夫妻が文字通り親身になっていろいろとご心配くださり、当日は諸事万端を家族、親族で整えてくださって感動的に送り出してくださった。

また晋山式一日の画像は改めてアップしたいと思いますが、心配された台風もそれ、晴れることこそなかったものの、暖かい一日となって、75人ものお稚児行列、庭儀法要も無事行うことができ、その後の傳燈奉告法要、記念式典、祝賀会まで、信じられないほど見事にスケジュールどおりに進行した。

この日のために、実行委員会を立ち上げて、記念事業を初めとする諸事業を進めてくださった総代さんをはじめとする役員の皆様、その趣旨を汲んで理解を示し、この経済情勢の中ご寄付をしてくださった上に物心両面からさまざまなサポートをしてくださった全檀家の皆さん、また法要前から何日も足を運んで法要の支度を整えてくださったご縁のご住職各位に、御礼申し上げます。本当にありがとうございました。

 

私は、下記の奉告文で観音信仰を高顕することを本願とするこの寺の住職としては、その本願を自分の本願としていきたいと述べています。寺の住職としては、本尊の教えを伝えるなんて当たり前のことのようですが、そのような取り組みが可能になる条件が整うことは、けっして当たり前ではありません。むしろ稀なことではないかと思います。

その意味で、私は恵まれています。なぜなら、その稀なる環境に在るからです。

新住職となって、寺の本願に沿って活動します、と言えるのは、とても立派なことを言っているようでいて、実はそうとうにのん気なことでもあると思います。お坊ちゃんな内容なのです。だって、支えてくれる檀家さんもなく、お堂は壊れ雨漏りだらけ、家族のためには住職以外の仕事に就かなくてはならない、と、そんな条件の中であったなら、言い得ることも限られてくるでしょう。また逆に、ある意味でのん気な、その理想的な文言を傳燈奉告にあたって述べることが許されたということは、一層の自戒として、これを受け止めていかなくてはならないと思うのです。

私の場合は、先代であり父である34世が、その条件を整えるために40年を尽くしてくれたと思うのです。

のうのうと、私は今、そのお膳立てをしてもらったところへ、座ろうとしている。

そこのところは、忘れないようにしたい。

自分が今座った「第三十五世」という座は、自分で築いたものではない、ということ。

その座を支度し、整え、すわり心地よくしてくれているのは、たくさんの檀信徒さんと、長谷寺檀徒一切精霊と、先代夫婦と、地域十方有縁の皆さん。

お釈迦様は、その恩を忘れないようにと六方礼を説いた。

今回の事業では、先祖供養の位牌堂を整備してもらったが、そのお堂の入り口には、父に「恩」という一字を大書してもらって額にした。位牌堂には、この寺を護ってくれてきた全檀家の先祖が供養され、また現戸主の名が記されている。

「恩」。

今まで、実はそれほど意識に上ってくることのなかったこの言葉。

今回の晋山事業で、強く立ち上がってきた言葉。

大切にしていきたい言葉。

 

 

 

伝灯奉告文

 

敬って

三世常住常命法身摩訶毘遮那如来 

金剛胎蔵両部界会 諸尊聖衆 

宗祖弘法大師 開山興教大師 

並びに 当山鎮守八聖大権現 

殊には 本尊長谷観世音大菩薩 

別しては 当山開基白助大明神を始め奉り

中興真海上人・歴代諸師大阿闍梨に白して言さく

夫れ以るに 

当山は 舒明九年 

開基白助翁 善光寺如来の御霊告を賜り 

大和初瀬の聖地より勧請せられし

霊尊長谷観世音大菩薩を安置し奉り 

爾来師資累代相承して今に一千三百七十有余年

法灯愈々輝きを増し霊験日々に新たなり

茲に末資の沙門慶澄 

先師慶雅大阿闍梨退任の後を承けて 

この観音霊場金峯山長谷寺第三十五世の法統を襲う

顧みるに先師 

弟子の戒行熟さぬを案じ 

法統継承に先立って総本山智積院に在を許すこと五年 

龍象諸大徳の慈誨薫陶の下 

洛東根嶺の遺風に触れ 

弱の性を以って今日漸く厳重の堂に入ることを得たり 

海滴の師恩 いずれの日にか之に報いん

本日晋山に当たり熟々惟るに 

当山開基の本願は 

観音大悲の本誓を十方に伝えんとするものなり 

しかるに 歴代先師は 

祖霊崇敬の徳風を興して檀信徒と共に菩提心の開花を喜び 

先祖供養の灯火を点して観音大悲の道を照らす

この大任を前に省みて甚だ戦々兢々たるものあり 

然りと言えども 幸いなる哉

先師慶雅和尚は泰山の如く当山にあって長老として貧道を導き 

碩徳巨匠の法縁は浅学を援く

加之(しかのみならず) 

長谷寺檀徒総代 住職継承の報に接するや 

檀家各家と相諮りて晋山の儀を調うばかりでなく 

小衲の所願を酌んで位牌堂並びに境内整備の記念事業を発願せり 

真に仏法紹隆寺院擁護の増上縁これに過ぎたるはなく 

十方檀越の信助は非才を支えて余りあり

然れば則ち慶澄 

今日以降の止住所作に於いて 

全身全霊を傾注して意馬に鞭打ち心猿を叱咤し 

以って内外の信頼と期待に背かざらんことに務め 

畢生の所願たる観音信仰高顕の開基本願を弥増して

次代に法灯を継がんことを誓う

乞い希わくは

本尊長谷観世音大菩薩を始め奉り 

諸仏諸菩薩 並びに諸天善神 

末資が丹心を哀愍納受せられ 

至願を成就せしめ給わんことを 

 

乃至法界 平等利益

 

 平成二十二年十月三十一日

 金峯山長谷寺  第三十五世 慶澄 敬白

※この傳燈奉告文は、真言宗智山派大本山川崎大師平間寺の先代高橋隆天大僧正様御入山の砌にお読みになられた奉告文を頼りにいたしました。合掌

カテゴリ

2015年7月

      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31  

アーカイブ